インタビュー

神石高原町民の方、神石高原町で事業を営む方に、神石高原町の魅力はもちろん、
大変だったことや、神石高原町での今後のビジョンまで、赤裸々に語っていただきました。

広大な土地にジビエ解体施設を作って三方よし!

神石高原町では、野生動物による獣害が年々増えて問題となっています。巷のグルメの間では猪や鹿はジビエ肉として珍重されるにもかかわらず、駆除された多くの野生動物が食用として使われず、捨てられていることはご存じでしょうか。今回ご紹介するのは、福山市へ移住してジビエ解体施設を作った前田諭志さんです。前田さんは、2023年3月に神石高原町に2軒目の解体施設を作り、日々野生動物の駆除、解体に汗を流しています。
大阪で飲食業を営んでいた前田さんが、なぜ神石高原町にジビエ解体施設を作ったのでしょうか。お話を伺いました。




1982年生まれ。フレンチのシェフ時代にジビエ料理の美味しさを学ぶ。25歳で大阪に飲食店を開業。2017年大阪から広島へ移住。2018年に福山市にジビエ解体処理施設「備後ジビエ製作所」を設立し、ジビエ解体販売事業を開始。2023年3月に神石高原町に2軒目となる解体施設を作る。







高級ジビエ肉をバンバン捨てている!?

ー神石高原町に解体施設を作った経緯を教えてください。
僕は大阪ミナミと新地で飲食店などを7件営んでいますが、ジビエ料理を出すにあたって1度も猟に出たことがないので、罠をかけるところから全て経験したいと思い、狩猟免許を取ったことがそもそものきっかけです。

狩猟免許を取り、日本全国いろいろな所に行って狩猟に立ち会わせてもらったのですが、みなさん捕った猪を捨てているんです。僕らからすると猪は超高級な食材というイメージなのにどんどん捨てているので、疑問に思いました。

よく聞いてみると、解体施設がないところが多く、困って捨てているというのです。福山市も、猪王国なのに解体施設がないためにみんな捨てていました。年間約1300頭駆除されており、9割が捨てられているということでした。とてももったいないですよね。

駆除期間の3月から10月終わりくらいまでは一頭あたり報奨金が出ますが、駆除期間が終わり狩猟期間になると国からの報奨金は出ません。狩猟期間に駆除した個体を僕らが買い取れば、猟師さんたちにとっては1年中収入になります。猟師さんは収入が入り助かる。僕らは新鮮なジビエ肉が手に入るし、飲食店に出せばお客様も喜ぶ。三方よしです。そこで福山市にジビエ解体施設を作りました。2018年のことです。


ー福山市以外にも候補地はあったのですか?

いえ。福山市が一番困っていたので福山市に決めました。困っているところに作らないと意味がないですから。福山市に施設を作ったことがきっかけとなり、神石高原町を訪れるようになりました。

神石高原町は2022年度に年間約1600頭の猪が駆除されていて、その数は2012年度の約3倍にも上っています。人口が減り、耕作放棄地が増えたことが原因として挙げられます。今神石高原町では猟師さんが100人ほどいるのですが、農家の方が「自分の畑は自分で守る」と猟師の免許を取って、駆除していることが多いんです。また、神石で駆除した猪は福山に持ち込みはできないので、今までは山に埋めて捨てるしかありませんでした。

お年寄りの猟師さんが、60㎏~100㎏ある猪を引っ張り上げて車に乗せて山へ行き、油圧ショベルで穴を掘って捨てていると言うんです。かなりの重労働じゃないですか。それを買い取ってあげれば、うれしいでしょう?行政に確認したところ、バックアップするのでぜひ解体施設を作ってくださいと言ってくれたので、神石高原町に2件目の施設を作ることができました。




食用以外はペットフードにして無駄なく販売

ー福山市と神石高原町の施設に、違いはあるのでしょうか。

食用に適した肉は福山市に、それ以外の肉は神石高原町に集めてペットフードにしています。以前からペット用の生肉を販売していたのですが、思ったより売り上げが良く、2年前からペットフードに力を入れ始めていました。スタッフも増え、これから事業を大きくしていこうと思っていたところ、神石高原町でもジビエ解体施設を作ってみないかという話となりちょうど良いタイミングでした。


ー食肉用の肉とペットフード用の肉とは、どのような違いがあるのですか?

猪の肉はおいしいものと食用に向かないものとに分けられます。食肉に適している美味しい肉は、大体4割~5割ですね。それ以外は猪であれば脂が全くなくて、固かったり臭かったりします。固い肉や臭い肉を食肉として流通させてしまうと、ジビエのイメージが悪くなってしまう。ジビエはおいしいという意識付けをしていきたいので、美味しい肉のみ食肉として流通させ、それ以外はペットフードとして無駄なく使用しています。肉が柔らかくて食用に向くかかどうかは、体重や性別によりますので、個体を見ればすぐに判別できるのです。



ーまだ神石高原町に施設ができて日が浅いですが、困ったこと、驚いたことなどはあります か。

うちの施設に携帯の電波が届かないんです。そこは困っているところですね。スーパーやホームセンターがないというのもすごいなぁと思います。みんなどうやって生活してるのかなと思ってしまいますが、各地域に商店がひとつあるので何とかなるようです。無駄な出費をしないですみますね。


ー地元の方との交流はいかがですか。

地域の人たちとは常に交流をしています。猟師の集まりがあれば僕も行って挨拶を交わし、酒を飲んだりして、徐々に親しくなってきました。猟師の人たちも、駆除した肉を僕らが引き取ってくれることはうれしいと思います。ただ、猟師の年齢層が高いので、今若い人を育てておかないと10年後がどうなるか心配ですね。


ーなぜ、若い猟師はいないのでしょうか?

猟師になろうと思ったら、資金が必要です。狩猟免許や鉄砲の所持免許を取ったり、鉄砲を買ったりして最低でも30万円以上はかかるし、軽トラックを買うなど、その他の費用を含めたら100万円はかかるんじゃないですか。そのため猟師になるハードルが上がってしまいます。でも我々が駆除した肉を買い取ることで年間30万円でも40万円でも収入が増えれば、猟師になる若い人は増えるんじゃないかな。


ー今後神石高原町が活性化していくために、何があればよいと考えていますか。

いきなり人口が増えるのは難しいと思うけれども、神石高原町の名前を知ってもら、良いところをわかってもらって、移住してくれるとうれしいかなと思います。

そのために必要なのは、まず働く場所です。うちの解体施設も雇用の受け皿として考えられますよね。

今うちの会社はスタッフが4人ですが、皆、神石高原町に住んでいます。2人は、22歳と24歳と若く、頑張っていて頼もしいです。




罠をかけて狩猟体験。ジビエ料理を楽しんで宿泊!
そんなツアーを作りたい

もう一つ、神石高原町に必要だと思うのは観光です。

神石高原町の解体施設の敷地は約1700坪あります。そこで、今の事業が軌道に乗れば解体施設としての役割プラスアルファの付帯事業として、神石高原町に人が来るようなことが何かできたらいいなとは思っています。

たとえば、狩猟体験をパッケージにする。猟師が罠をかけるところや、狩猟や解体を見学したあとに、おいしいジビエ料理を堪能する。もともとシェフですから、おいしい料理はお任せください。宿泊できるような施設もできたらいいかなと思っています。朝、罠に獲物がかかっているかどうか見に行くときのワクワク感は、ぜひ味わってほしいですね。